『欲しくなかったって言えば嘘になるかな。他人の兄弟を見ても何とも思わないけど……』
『……けど?』
親父はその先の言葉を急かすように反応した
俺はうつ向き、地面に生えている草を見つめながら言った
『親父と叔父さんみたいに歳をとっても仲がいい兄弟は羨ましいと思う』
お正月、お盆、年に数回しか会わないけれど、顔を合わせればお互い楽しそうに酒を酌み交わす姿を見ていつもそう思ってた
親父は太陽でキラキラ光る川の水面を見ながら、『そうか』と呟いた
俺は自分の中に秘めていた思いを1つ言えた事で少しだけホッとしていた
それもつかの間、親父は驚くべき事を口にした
『父さん昔、癌だったんだよ。あつしが母さんのお腹に居る時の話だ。』
突然の事で、俺の思考は一瞬停止した
そんな話聞いた事もなかったし、テレビの特集で癌の人が出ていても何にも言わなかった
もう完治している話だろうし、親父が言うようにこれは昔の事だ
驚いたけど、動揺する事じゃない
でもなんで今そんな話をするんだろう?
今まで黙っていた話をどうして今…俺の中でそれだけが疑問に残った
だけど親父の次の言葉で俺は全てを理解する