夏の鈴



庭を吹き抜けた風が、居間に流れてくる

それと同時に風鈴がチリンチリンと鳴った


『この音を聞くと、夏が来たって感じるな』

親父は耳をすまし、風鈴の音を聞いた

『お父さん、この音が聞きたくて夏の間はここでご飯を食べてるのよ』


そう言われてみれば、そうだった

うちの食卓は本来別にあって、居間は客人が来た時に使うものだった

だけど夏の間は決まって食事は居間でする

きっと涼しいからとか、親父が庭を見たいからとか、そんな理由だと思ってた


『あの風鈴はあつしが初めてお土産で買ってきてくれた物だからな』

親父はまた嬉しそうに笑みを溢した


なぜだか俺は…少しだけ胸が苦しくなった

だって俺は忘れていたのに

風鈴の事も、居間でご飯を食べる理由さえ知ろうともしなかったのに


それなのに、夏になると必ず風鈴を吊るす親父の優しさが胸に染みた


俺はチリンチリンと風鈴の音を聞きながら、親父とおふくろに目を向けた



こんな光景、昔の事だと思ってた


何も考えず、ただご飯を食べて、ただ会話するっていう普通の事


ずっとずっと昔の光景だと思っていたのに、こんなにも近くにあった

きっといつでも出来た


きっと…いつだって出来た事


それをしようとなかったのは俺だ