「美優。みんなが幸せになる方法なんてないんだよ。誰かと誰かがうまい具合にくっつくなんてマンガやストーリーじゃないんだからそんなうまい話なんてないよ。誰かがくっつけば、その裏で泣く人間もいる。二岡だってそうでしょ。二岡はあからさまに香取さんみたいにはならなかったけど、だからって、何も思わずにいたわけじゃない」


麻衣に言われて、あたしはハッと二岡のことを思い出す。


あたしは香取さんのことばかりを思っていたけど、告白を断った二岡のことも傷つけていたはずなんだ。


だけど、それを見えないからって忘れていた。


「美優………。人の心配や気持ちばかり思っていたら、自分は幸せにはならないよ」


麻衣の言うことはわかっている。


だけど、わかってはいても心はそんなにすぐには割り切れないよ。


煮え切らない表情が表れていたんだと思う。


麻衣は大きく息を吐くと、ポンッとあたしの肩を叩いてきた。


「そんなにすぐには思えないかもしれないけど、自分の気持ちは大事にしなくちゃ。一番大切にしなくちゃいけないものを間違えちゃダメだよ」


一番………大切なもの?


あたしが心の中で自問自答している間に、麻衣は「帰ろっか」と明るく笑いながら、あたしの背中を押してきた。








 「ハァ~………」


大きな買い物袋2つをキッチンのステンレスの台の上に置き、あたしは大きくため息をつく。


麻衣が言っていた、『1番大切にしなくちゃいけないものを間違えちゃダメだよ』という言葉。


その意味をあたしはまだわかっていなかった。


夕飯の材料も兼ねた買い物だったんだけど、今日はその言葉が頭をぐるぐると回っていて、サービス品も買い忘れちゃったし………。


今日は卵が安い日なのに、その卵を買い忘れちゃった………。