歩きつかれたレンとわたしは、映画館にも入った。
初めて入る…ううん、初めてじゃなかったけれど、
映画館に入るときはいつも、レンのポケットの奥に入れられてたから、スクリーンで映像を見たことはなかった。
真っ暗闇には慣れていた。
だけど、館内に入って、スクリーンの大きさにびっくりした。
「おっきい…」
「なにが?」
「テレビ」
「は?」
「テレビと全然違うね」
「…映画館だからな」
言ってからレンは、「ぷっ」と吹き出した。
「なんで笑うの?」
「だってお前、面白い」
言いながらお腹を抱えたレンは、声を殺して笑っている。
前にいたお客さんが、怪訝な顔して振り向いた。
「レン、見られてるよ」
「ふ…くくく」
「レン、始まっちゃうよ、映画。映画館って音立てちゃいけないんでしょ?」
「くく…うん」
「咳とか、くしゃみはしていいの?」
「ぷっ、はははっはは!」
とうとうレンは大声で笑い出した。
周りのお客さんが一斉にこっちを見る。
「ちょっとお…レン」
わたしは恥ずかしくて、椅子に埋もれるように身体を沈めた。
映画が始まってもレンの肩は、時々、思い出したみたいに震えてた。

