「あっ! やべ!」
数十センチ上で、あわてたレンの声がする。
女の子たちがあんなにきゃあきゃあ騒いでたのに、
このヒト、全然気づかなかったんだ…と、ちょっと呆れてしまう。
午後のレンは、どこか、ぼうっとしている。
夕方近くなってくると、いつも眠そうにしているのを知っている。
レンが立ち上がると同時に、わたしの視界は真っ暗になった。
そして、地震のように揺れるカラダ。
薄っすらと、ジャケット越しにレンの心音が聞こえてくる。
トクトクトクトクトクトク……
かなり焦っているときの心臓のスピード。
あきれるけれど、ちょっと笑っちゃう。
毎回同じことをしているこのヒトは、藤崎レン、もうじき大学4年生になる男の子。
背が高くて、少し色白で、
落ち着いて見えるけど実はそうでもなくて、
笑い皺が深く入る、素敵なヒト。

