時間は9時を過ぎていた。

病室へ戻ると、レンの傍に座ったユウ君の姿があった。



「あ、ナナちゃん、遅かったじゃん、心配したよ」

「ただいま。ごめんね、心配かけちゃって」



立ち上がったユウ君は、わたしに近寄り顔を覗き込んだ。



「ナナちゃん…目、赤いよ。泣いた?」

「うん、ちょっとだけ」



わたしはユウ君を見上げ、心配をかけないようにへへっと笑ってみせた。



「ナナちゃん…」

「大丈夫。平気だから。少し眠れたし」

「そうか…ご飯は? ちゃんと食べた?」

「ううん、まだ食べてない」

「やっぱり……。ダメだ、ちゃんと食べないと」



振り返ったユウ君は、棚の上にのせたビニールの袋をつかんで、わたしに振り向き手招きをした。



「さっきさ、コンビニで買ってきたんだ。たぶん、食べないで戻ってくるだろうと思ってさ。
一緒に食おう。オレもまだだし」



な? という顔をしたユウ君は、袋からおにぎりを取り出した。

ユウ君の隣に腰掛けて、わたしはそれを受け取った。



「ありがとう、ユウ君」

「いえいえ」



微笑んだユウ君の目の下は、薄っすらと黒い。

ユウ君も眠れない日が続いていて、食欲だって完全には戻ってないはずだ。



「ちゃんと食べなさい。レンに叱られちまう…オレが」

「ユウ君…」



おにぎりに噛り付いたユウ君は、もぐもぐと大袈裟に口を動かして笑ってみせた。

その優しさが、素直に嬉しかった。



「ありがとう」

「食ったら、またちゃんと寝るんだぞ」

「…うん」



おにぎりにはレンの好きな昆布が入っていて、

わたしはそれを噛みながら、ユウ君に気づかれないように少し泣いた。