ひとつひとつの思い出を、確認するように部屋を歩いた。


ベランダから見下ろした自転車置き場。

ユウ君が戻してくれたレンの自転車はちゃんとそこにあって、乗る人を待っているようだ。



何事もなかったかのように。



このベランダから、レンを見送った。

手を振り合って、笑って。

通りの向こうに消えるレンの後ろ姿をじっと見ていた。

ちょっぴり切ない気持ちを抱えて。



春には転々と散らばる桜の木が見えて、

レンを想って泣いた日には、細い月だけがわたしを見ていた。



新しい季節の緩い風が吹いて部屋に流れ込んで、

草と土の匂いにほんわりとした気持ちになって。



水色のカーテンが揺れてわたしの頬を撫でて、

青い空に流れる雲と飛行機雲を見上げて、

眩しい光に目を細めて、季節の香りを感じることができた。