ぽっかりと、穴が開いてしまったような部屋だ。

この数日間で、こんなにも印象が変わってしまうなんて。


レンと積み上げた時間が削げ落ちてしまったような部屋の中、

わたしはぺたりと床に腰を下ろしていた。



レンがいつも座っていたソファ。


大学へ行くレンを見送ったベランダのカーテン。


レンの匂いのする布団に包まれて眠ったベッド。



こんなにも、影の薄いものだったろうか。




ピンクとブルーのおそろいのマグカップをのせたテーブルも、

レンの帰りを待ちわびてそわそわして立っていた玄関も、


レンがいないっていうだけで、色が無い。

ひっそりと、ただ無機質で。



すべて、夢だったんじゃないかと思うくらいだ。



でも、思い出は、ちゃんと残っていて。


一緒に食べたオムライスもハンバーガーの味も、

ユウ君にチュウされそうになったことも、

レンに助けてもらったことも、

何度も謝っていたユウ君の姿も。


大きなケーキの味も、

泣いてレンを困らせたことも、

抱きしめられた腕の感触も、

たくさん、キスをしてくれたことも。



全部、目を閉じると鮮やかに浮かんでくる。



わたしが、ヒトとして味わえた生活。

叶えたかった想い。

やっとつかめた幸せ。


友情の温かさと力強さ。

大切なヒトが傍にいる喜び。