アパートへ向かうタクシーの中、わたしは込み上げる不安に襲われたままだった。


レンと向かいあったユウ君の背中。

影を背負った背中は、もっと別の、何かが張り付いていた。


わたしに向けられた穏やか過ぎる微笑み。

優しい手のひらから流れ込んできた感情。


ユウ君は、何かを決断していた。


あってはいけない、何かを。



「ユウ君…お願い…間に合って」



わたしは窓の外を流れる灯りを見つめながら、動悸したままの胸を押さえていた。


アパートの前で止まったタクシーを降り、わたしは真っ直ぐユウ君の部屋へ駆け出した。


呼鈴を押す手間ももどかしかった。

ドアをおもいっきり叩き、ユウ君の名前を呼んだ。


けれど、返事はなかった。

叩くドアの音だけが、大きく響いた。


覗いた窓からは灯りが漏れている。

ユウ君は中にいるはずだった。