「じゃ、またね」



レンと同じ、優しい手のひらでわたしの頭を撫でたユウ君は、

背中に影をのせたまま病室を後にし、長い廊下を静かに歩いていった。



「ユウ君」



何故か引き止めなければいけない気がして、わたしは数歩廊下を追いかけたけれど、足がすくんで前へ進めなかった。


レンの傍へ歩いたわたしは、さっきまでユウ君が座っていた椅子に腰を下ろした。

まだ残る、ユウ君の温かみ。

レンの顔を覗き込んで、何故だか妙な胸騒ぎがした。



「レン…」



レンはただじっと、目を閉じたままだ。



「レン…ユウ君と…なにを話したの?」



レンは、何も応えない。

閉じた瞼のまつげは、ぴくりとも動かず長く綺麗に伏せられたままで。



「レン…お願い。何か言って。目を開けて」



わたしはそのまつげにそっとキスをして、レンを抱きしめた。

レンの微かな心音が聞こえる。


気のせいだったのかもしれない。

レンの心音が何かを訴えてるような感じがした。



胸騒ぎは治まらなかった。


わたしは立ち上がり、レンの手を握り締めたあと、廊下に駆け出した。


何かに駆り立てられるように、わたしは階段を駆け下りていた。