入り口に立ったわたしにユウ君が気づいたのは、それから数分経ってからだった。

表情の無い顔で振り向いたユウ君は、

わたしの姿を視界に捕らえると、僅かに頬を緩ませた。



「ナナちゃん」



疲れきった顔のユウ君は、レンに振り返り、数秒間そのままいた。

目を閉じたままのレンの頬に、髪に、そっと右手を滑らしている。



「レン、またな」



小さく呟くユウ君の声は、酷く低く、そして重くわたしの耳にも届いた。

ゆっくりと立ち上がったユウ君は、わたしのもとまで静かに歩いて、穏やかに微笑んだ。



「ナナちゃん、大丈夫? 疲れてない?」

「…うん、大丈夫」

「オレ、帰るね」

「…うん」

「ナナちゃんも…ちゃんと寝ろよ」

「…うん」

「ナナちゃんのほうが、疲れちまう」



ユウ君こそ…と言おうとしたけれど、

その穏やか過ぎる微笑みに、わたしは言葉を失った。