「ナナちゃん」


後ろからのユウ君の細い声。

わたしはその声に反応し振り返った。


長い間、ユウ君もそうやって立ち尽くしていたのだろう。

その表情は苦痛に覆われて、今にも泣き出しそうに歪んでいた。



「ナナちゃん…オレ…ごめん、ホントに…ごめん…」

「……何が、あったの」

「…ごめん…レン…」

「ユウ君…どうしたの? どうしてレン、こんななの? ねえ…」



再び顔を両手で覆ったユウ君は、

それでもゆっくりとわたしに近づき、重々しく口を開いた。



「助けてくれたんだ、レン、オレのこと」

「助けて?」

「一緒に帰ってたんだ、帰り…大学の帰り」

「帰り…?」

「オレのことかばって…」



とめどなく涙を流すユウ君は、途切れ途切れに消えそうな声を絞り出して、ゆっくりと、わたしに説明をした。


わたしは、その姿をじっと見つめて、まだ震えたままの膝を支えて、

静まり返った病室を埋めていく現実の言葉たちを耳に入れていた。