何度かユウ君に名前を呼ばれ、必死に肩を揺すられ、

抱きしめられている感覚にようやく気づいた。


「ナナちゃん、頼む、しっかりしてくれ」

「ユウ君…」

「危ないんだ、レン」

「……」

「頼む」


ユウ君の身体は、雨でしっとりと濡れていた。

抱きしめられた腕のなかで、雨の匂いのユウ君の心臓が早かった。




ユウ君に抱えられるように部屋を出たときには、雨は止んでいた。

ところどころに残る水溜りは、足元を容赦なく濡らしていく。


タクシーに乗り込み、病院へ向かう窓にわたしが映っている。

その向こうに、俯くユウ君の姿。


そしてずっと向こうに、黒い空が広がっている。

ビルの放つ光だけがやけに明るく濡れた街を照らしている。


近づく病院の窓々と赤い光を見ながら、

わたしはぎゅっと、レンからもらった赤いスカーフを握りしめていた。