君の左のポケットで~Now&Forever~

ベランダへ駆け寄る。


自転車置き場にいるレンを見下ろして、

顔を上げてくれるのを待つこのひと時の間。

それさえも、切なくて。



駆け下りたくなる。

追いかけて、引き止めたくなる。


その気持ちが、その日はすごく大きくて。

どうしてか、すごく苦しくて。



「レン!」



呼びかけるわたしの声に顔を上げたレンは、

手を上げて、自転車にまたがった。



笑顔で通りに出たレンの背中が、遠くなる。



遠く、遠く、小さくなって、見えなくなる。



「レン、早く帰ってきて」



レンが消えた曲がり角。


見えなくなっても、ずっと探した。



雨雲が燻った空が、静かに色を変えていく。



わたしは、


頬にぽつりと冷たい雨が落ちてくるまで、


ただずっとその場所で、


いつまでもレンを探していた。