「色々大変みたいだけど」




ちくり…と何かが胸を刺した。


初めて感じる、妙な胸騒ぎだった。



「レン…」



呟く名前は、音もなく風に消されていく。



追いかけようか。


追いかけたら、レンは立ち止まってくれるだろうか。


追いかけたら…



夕日の向こうにぎゅっと目を凝らす。


レンの姿は、もうどこにも見当たらない。



「レン…」



わたしはそこに立ち尽くしたまま、


ただレンの消えた小道の向こうをぼんやりと眺めるしかできなかった。



ビルの上の雲は形をなくし、薄っすらと灰色に滲んでいた。