「あれ? ユウは?」
「…帰っちゃった」
「はあ?」
「…あとはふた…いや、何か用事があったみたい。レンにヨロシクって」
「何だあいつ。いっつも突然だな」
コーヒーを持ってきたレンは、「あちっ」とそれを啜りながら椅子に腰を下ろした。
「バイトかな? いや今日は休みだな、変だな」
独り言を呟いて、頬づえをついて外を見ている。
深爪気味の指が、とんとんと頬の上で動いている。
その爪を眺めながら、わたしはぽつんと聞いてみた。
「レン」
「ん?」
「いろいろ、なの?」
「んー?」
「いろいろ、大変なの?」
「何が?」
「…わかんないけど」
「ふっ、何だよ、ナナ」
「いや…いろいろ大変なのかなって思って…」
「居候がいるからな、大変だ」
頬づえをついたまま、レンは軽く笑っていた。
優しそうな瞳の目じりがゆっくり下がる。
ドキドキする。
レンの下がる目じりは、すごく、いい。
「居候って。あたしだって、掃除とか頑張ってるもん」
何だか緊張して、レンから視線をそらして拗ねてみる。
「はいはい」
大きなレンの手がわたしの頭を撫でた。
ずるい。
そんなことされたら、何にも言えなくなる。
耳まで赤くなっているわたしは、俯いてもじもじするしかなかった。

