レンの手がジャケットのポケットに伸びると、わたしの揺れは落ち着いた。
(ふう……)
落ち着いたのはいいけれど、わたしの視界はまた真っ暗になる。
トントントン…とリズミカルに、下に下に、下っていくこの感じは、階段をくだる時の振動。
昇りよりも、降りのときのこの感覚が少し辛いな…と思っているうちに、暗さに目が慣れてくる。
少しだけ、このなかに明るさが入り込んでくるのがわかる。
ポケットのなかに。
わたしは上を向いてるみたい。
良かった。
下を向いちゃうと何も見えなくなるからつまらない。
オレンジの空が少しだけ覗いている。
そして、レンの顔が見える。
下から見ると、まつげが長いのが、よくわかる。

