「……」
周りに人はいない。こっちのほうにはあまり人が来ないのだろう。
困り果てていると、向こうから足音が聞こえた。
「……?」
誰だろう、と多季は思う。
足音が近づいてきて、やがて顔を出したのは男子。
靴の色とかからして、多分多季と同じ新入生。
「お、こんなところに人!」
「……!」
ばっちり目が合うと、指をさされた。
「あんた、俺と同じ学年だろ? 俺実は迷子になっちゃってさー、どうやって教室戻るか教えてくんない?」
「……」
(わ、わたしと同じだ…)
多季はそう思った。いや、それ以前に迷子になることに問題があると思うのだが。
「わ…わたし…」
話したいけど、うまく話せない。それに相手は男子だし。
多季はその場から離れようと思って後ろを向いた。そして走り出した。
が。
「あいたっ!」
派手にコケる。
自分の運動音痴をひどく呪った。目の前でコケられた男子は、多季を見て呆気にとられている。
(は、恥ずかしい…!)
多季は恥ずかしさで顔を真っ赤にしてうつむいた。
「……ぶっ、あははっ!」
そして、男子が笑い出した。
「なっ…ひ、ひどい…!」
多季は思わずそう言ってしまう。
「ははっ、わ、悪りぃ。あんた、面白いんだなーと思って。もう友達とかたくさんできたんだろ?」
「……それはっ…」

