瞳の奥に浮かぶ憂いはいつもと同じ。

それだから、なおさらつかみどころがない。

うちの親族のヒエラルキーの頂点に立つ麻砂女お婆ちゃん相手にふざけたやり取りできるのは、達郎兄ちゃんだけだろう。

お母さんはお婆ちゃんに見えないように顔を隠しながら、必死に笑いをこらえている。

「ところで、どうして僕を連れてきたんです」

達郎兄ちゃんがお婆ちゃんに訊いた。

どうやら達郎兄ちゃんは自らの意志でここに来たわけではないらしい。

確かに。

達郎兄ちゃんは、見舞いに来ないほど薄情ではないけれど、急を聞いて飛んでくるようなキャラでもない。

「達郎には果穂里の家庭教師をしてもらいます」

「ほぉ」

「へ?」

達郎兄ちゃんとあたしは同時に声をあげた。

「か、家庭教師って?」

「入院している間は学校の授業も遅れるでしょうから、達郎に勉強をみてもらうんですよ」

「たった半月だよ?」

「半月といえどおろそかにしてはいけません!」