月と太陽の事件簿16/さようならの向こう側

達郎兄ちゃんは微笑みながら首を振る。

「僕が言いたいのは、捜索の際、怪しい人物は見なかったかということです」

「なんだ、君の言い方だと…」

藤上先生は憤慨した様子を残しながらも、怪しい人物の存在は否定した。

「一緒に多江さんを探していた看護婦の方も、怪しい人物は見なかったんでしょうか」

「あ…い、いや鈴木君とは途中で別行動をとったんだ」

藤上先生は口ごもりながら言った。

「別れた?」

「2人で同じ場所を探すより、1人ずつで別々の場所を探した方がいいと思ってね」

緊急事態だったしと、藤上先生はそう言葉を付け加えた。

「先生方が単独行動をとっていたのは、どれくらいの時間ですか」

「5分か10分ぐらいだったと思うが…」

「そうですか」

達郎兄ちゃんは、唇を尖らせながらうなずいた。

「もういいかね」

藤上先生は時計を見るような仕草をした。

左手をあげた後、思い出したように白衣のポケットに手を突っ込む。