月と太陽の事件簿16/さようならの向こう側

「イェマント氏病患者が死の衝動に駆られるとか、そういった症例は過去にあったんですか」

達郎兄ちゃんの質問に、藤上先生は首を振った。

「それはわからない。私の専門外だからね」

治療にあたっていた精神科の先生なら知っているかも、と藤上先生は言った。

「今日は学会でいないが、イェマント氏病の事を知りたいなら、訊いてみるがいい」

「そうします」

達郎兄ちゃんはうなずいた。

「ですが、多江さんの死については、イェマント氏病よりも昨夜の皆さんの行動の方が重要かもしれません」

「何だって?」

達郎兄ちゃんの言葉に藤上先生は頬を震わせた。

「先生は昨夜、もう一人の看護婦の方と一緒に、病院内の捜索にあたっていたそうですが」

「その通りだが、それが何か?」

声には、いらだちの色があった。

それはそうだ。

達郎兄ちゃんの言い方だと、昨夜の宿直メンバーが怪しいという風に聞こえる。

「誤解しないで下さい」