月と太陽の事件簿16/さようならの向こう側

だが婦長さんは、たたみかけるような達郎兄ちゃんの口調に気おされたらしく、どうぞと言って本を貸してくれた。


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「けっきょく多江さんの自殺の動機、わからなかったね」

あたしは車椅子を押す達郎兄ちゃんを見上げて言った。

婦長さんから借りた本は、すでに肩から下げたカバンに入っている。

「なぁ、カホ」

「なぁに?」

「多江さんは本当に自殺したと思うか」

「え?」

何を今さら。

「疑問に思ったから調べはじめたんでしょ?」

そう言った後で、ハッとなった。

多江さんの死が自殺じゃないのなら、他殺…?

「達郎兄ちゃん、何かおかしな点を見つけたの?」

「具体的に何とは言えないが…」

「教えて!」

思わず叫んだ時、達郎兄ちゃんが「おっと」と車椅子をとめた。

あたしの頭の上で「うわっ」という声がする。

聞き覚えのある声。

その声の主は、藤上先生だった。