月と太陽の事件簿16/さようならの向こう側

「さしつかえなければ見せて頂けますか」

「…何を」

再び戸惑う婦長さん。

「多江さんが婦長さんに送ったメールです」

主語はつけろよ。

だが婦長さんは気分を害した風もなく、携帯を取り出した。

さすが白衣の天使。

「これです」

婦長さんから携帯を受け取った達郎兄ちゃんは、画面に目を落とした。

あたしがのぞきこもうとすると、達郎兄ちゃんは画面をこちらに向けてくれた。

メールの文面は下記の通りだった。

「伯母様、長い間お世話になりました。ありがとうございました。先立つ不幸をお許しください。さようなら」

たったこれだけの簡潔な文章。

また「ありがとう」と「さようなら」か。

「これだけでは、自殺の動機はわかりませんね」

達郎兄ちゃんの言葉に婦長さんはうなずいた。

「遺書(メール)を受け取ったのは婦長さんだけですか?」

「はい。警察の方からもそう伺いました」

今度は達郎兄ちゃんがうなずく。