月と太陽の事件簿16/さようならの向こう側

「昨日の多江さんは、どんな様子でしたか」

「どんな様子と言われても…」

「おかしなところはありませんでしたか」

「多少、元気がなかった気はしましたが…」

「なんか性格が変わったとか、その辺のことは気付きませんでしたか」

あたしは達郎兄ちゃんと婦長さんの間に割って入った。

「いいえ」

婦長さんは苦笑混じりに首を振った。

うーむ、訊き方がマズかったか?

隣の達郎兄ちゃんは、相変わらず唇を尖らせている。

「もうひとつ伺ってもよろしいですか」

数秒間沈黙してから、達郎兄ちゃんは言った。

「多江さんは何故、電話ではなく、メールを寄越したんでしょうか」

達郎兄ちゃんの質問に、婦長さんは戸惑いの色をみせる。

そんなこと多江さん本人じゃなきゃわかるわけないじゃん。

「恐らく…電話だと引き止められると思ったのでは…」

婦長さんはもっともな理由を返した。

その答に達郎兄ちゃんはなるほど、とうなずく。