月と太陽の事件簿16/さようならの向こう側

だが婦長さんは、再び達郎兄ちゃんへと視線を戻した。

「確かにイェマント氏病は症例が少なく、治療法は確立されていません」

ですが、と婦長さんは言葉を続けた。

「多江は、自分がイェマント氏病だという自覚はなかったはずなのです」

多江さんに対しては、病名は伏せられていたという。

あくまでも心労による体調不良という名目で、入院させてたそうだ。

「それに多江は自分の病気のことを知ろうとはしませんでした。また知ろうとしても、できなかったと思います」

確かに。

イェマント氏病なんて、ガンみたいに普通の人が知ってる病気じゃないもんなぁ。

達郎兄ちゃんはイェマント氏病のこと知ってたけど、この人は特別だし。

「どうした」

じっと見ていたら達郎兄ちゃんに訊かれ、あたしはあわてて首を振った。

「ですから、多江が病気を悲観して自殺したとは考えにくいのです」

婦長さんの言葉に対し、達郎兄ちゃんは唇を尖らせた。