どんなメロディーだったか忘れちゃった。
時計を見て緑茶を見て、時計を見た。
……居る……かな。
鏡を見て髪を手櫛で適当に整えてからケータイと財布を持ち、家を出た。
向かう先は、橋。
加藤光に命を助けられた橋へ。
居るかは分からない。
もしかしたら居ないかもしれない。
けど、
もしかしたら居るかもしれない。
―――何故か、彼の歌と歌声を求めてた。
「ハァ……」
静けさに包まれた橋に、誰も座っていない寂しいベンチ。
春風に、木が揺れた。
「居ないのか……」
「誰が」
ベンチに座りながら独り言のように呟くと、いきなり聞こえた声に体がビクッとした。



