じゃないと、あたし、今頃ここに居ない。


先輩は得体の知れない〝何か〟を辛そうに噛み締めている。



「先輩は、出逢わなければ良かったって思ってるんですか…?」



いつもは力強い瞳が弱々しく揺れている。そして何も言わない。


蜂蜜色の髪の毛が彼の顔に影を落とした。



「…何とか言ってよ…」



黙らないで。

無言だなんて卑怯だわ。



「先輩が背負ってる物全部、ちゃんと受け止めるから…っ」



一歩一歩、距離を詰める。


ベンチに座る先輩の目の前にしゃがんで彼の手を握ってみる。



「先輩が大好きだから、救ってあげたい」



あたしが君に救われたように。