「石田結衣ですーっ。はい、お水。早くあたしのこと…思い出して下さいよ」 「んー」 お茶目に手渡した水を飲むと、先輩はそっぽを向いてしまう。 彼の背中に胸が軋んだ。 先輩の中からあたしが消えてしまったままなんて、そんなの嫌だ。 早く、思い出してよ。 「先輩はあたしの命の恩人なんですよ…」 「俺が?」 「はい。死のうとした時、丁度先輩の歌が聴こえて来たんです」 先輩が忘れても、 あたしは憶えてる。 少しずつ話していけば思い出すかもしれない。