憎らしいくらいに、体があの感覚忘れていないことに気付かされる。 今だって、この耳は音のずれをすぐに察知してしまうんだ。 「チューニングもなってない。三弦がダメだ」 錫代はぽかんとした顔で俺の手元と顔を見ていたが、呆れて説明するのも面倒で黙って作業を続けた。 耳だけを頼りに三弦のペグをしめて、弦を弾く。 昔は自慢だったこの耳が、今じゃ恨めしい……。 「うわぁ、素敵!奏斗先輩、やっぱりかっこいいです」 突然、錫代が向けてきたのは爛々と輝く瞳。 よく表情のかわる奴だ――。