今まで錫代の背中は、懸命に大きく見せていたのだろう。
親の諍いと、大切な人を失った悲しみと、自分を見てもらえない痛み。
その小さな小さな胸に沢山の痛みを抱え、いくつもの笑顔でそれを抑えつけてきたはずだ。
でも、今、それが少し消えていったんじゃないかと思う――。
客席の三列目の一番端に、俺も見覚えのある顔がある。
あの雨の中、家を出ていった錫代のおふくろさん。
そして、隣にいるのはきっと親父さんだろう。
二人ともぎこちなさはあるものの、ちゃんと娘を見に来てる。
「ほら、錫代は一人じゃない。姉さんじゃなく、錫代を見に来てるんだ」


