LOST MUSIC〜消えない残像〜



錫代は不思議そうな顔でゆっくり首を振る。


だから俺は錫代のその華奢な腕を不器用に引いていった。


もうこんな細い腕でいろんなもの抱え込むことはない。


そうして錫代を連れて辿り着いたのは、あたたかい光のさすステージ脇。


目の前には、湧き立つ客席が一面に広がる。


すると錫代は、ある一点だけを見つめ、ぴたりと立ち尽くす。



「……お母さん――お父さん――」



声をつまらせ必死に紡がれた消えそうな音。


心なしか錫代の背中が小さくなったように見える。


やっと本当の錫代になったかのように――。