気付けば、千秋の手を掴んで静かに呟いていた智也。


「智也、離してっ!ほっといてよっ!」


もう雅臣はおらず、千秋は涙を流し切羽詰まった声で懸命に訴えていた。


もう全ては雅臣に向いていて、智也なんてまるで見えていない。


頬を伝う涙も、雅臣以外見えていない濡れた瞳も、必死に振りほどこうとする手も――。


「できないよ!――千秋のことが好きだから」


――その時全てが弾けた――。


こだまする智也の声と、突然訪れた沈黙。


千秋は言葉を失って、智也は俯いて小さく震えてた。


俺はただその状況を見届けるだけ……。