LOST MUSIC〜消えない残像〜



「……何で、理由も聞かずに泊めてくれたんですか?」


弱々しく言葉を吐き出した錫代は、すごく儚い存在に見えた。


何かに押し潰されて消えてしまいそうに。


「話したくないことの一つや二つあんだろ」


俺は気の利いたことは言えないのに、錫代は笑うんだ。


潤んだ瞳で、偽りなど感じられぬ穏やかな微笑みを。


でも、その痛々しくも見える笑顔をとても直視できなくて、俺は黙ってソファーにつく。


「――私、奏斗先輩の家族が羨ましいです」


そして、錫代は唐突にワントーン上がった声でそう言うと、おもむろに窓の前へと歩きだした。