「あー、翠月ちゃんといったね?うちは構わないんだが、ご両親は大丈夫かい?早く帰らないと」
俺と向かい合わせの席に座った親父は咎めるわけでなく、とても心配そうに問い掛けてきた。
すると、急に錫代は立ち上がり勢い良く頭を下げて、必死に訴える。
「お願いです!一晩だけ泊めてください!今日はどうしても家に帰りたくないんです……」
懸命に振り絞られた声に圧倒される俺たち。
瞳に溢れんばかりに湛えられた涙も、色が変わるほどに噛み締められた唇も、必死に踏張る小さな足も、いつもの錫代とは全てが違う。
まるで、溺れゆく体で足掻き、助けを求めているように……。


