もしかしたら…
そんなことはひとつもなく
東京に戻り、自宅へ帰ると天花が起きていた。
コタツの前でちょこんと座って、テレビを見ながら「おかえり」と一言だけ。
なんとなく感情がないように聞こえるのは疲れてるからか…
「ただいま。智は?」
「帰ったよ」
「そか」
「会えたの?」
「会えたよ」
なんか嫌な感じ。
「良かったね」
「何も出来なかったけどな」
「キスしたクセに」
あぁ…そっか…
天花は何もかも分かってるんだ
だから、こんなわざとらしくして
「お前、不器用すぎ」
「ガクちゃん…ダメだよ…」
「だいじぶ」
「…」
抱きしめても感覚なんて無くて
「心配すんな。お前のこともちゃんと覚えててやる」
キスしたオデコの感触さえも
「俺、お前のこと結構好きだぞ」
零れ落ちる涙も
「だから・・安心して逝きな…」
すべての出来事が
穏やかに
緩やかに

