「結構気に入ってんだよ、これ」
背中全体が温かい。じんわり、徐々に先輩の熱が伝わってきて――私も、この体勢は好き。
力を抜いて、体を先輩に預ける。
お腹にある先輩の手に触れながら、私は笑みをこぼしていた。
「だいぶ慣れたみたいだな?」
「これだけくっつかれれば、慣れると思います」
「前はこうしても、すぐ力抜かなかったからな。――彼氏って認めたか?」
「別に、認めてないわけじゃ……」
「そう拗ねるなよっ――と」
急に体を横向きにされ、思わず顔を見上げると、怪しい笑みを浮かべた先輩が。
「続き――するか?」
ん? と、顔を近付ける。寸前のところで止め、私の答えを待っているようだった。
本当に、毎回私がいいって言うまでしないんだ。
真面目だなと思う反面、してほしいってことはもうわかってるんだから、改めて聞かないでほしいなって。
「真白――どうしたい?」
「――――したい、です」
「何をしたいんだ?」
「っ!? わ、わかってるくせに……」
「言われると結構そそるんだぞ?――真白の口から、聞きたい」
おでこをくっつけ、先輩は言う。
「真白――言え」
思考を麻痺させる甘い声。
獲物を狙う強い瞳。
そんなふうにされたら、言わないなんてことはできない――。
「キス、が――したい、です」
振り絞るように言えば、先輩は私の頭を胸に埋めた。
「やべぇーな。思った以上に効いた」
だから激しくなるかもしれないと言う先輩に、私はこれ以上待てない自分がいることに気が付いた。
「しないん、ですか?」
「――んな目で見るなって」
ふっ、と笑みを見せたかと思えば、真剣な表情となり、そっと唇を重ねてきた。
激しくなるかもって言ってたけど、先輩はセーブしてくれていた。息も吸えるし、苦しくなるようなこともない。
体が……熱い。
キスのせいなのか。
それとも風邪のせいなのか。
全身が熱を発して、頭がぼぉーっとする感覚がした。
ブー、ブー、ブー。
携帯の音が聞こえる。
ベッド脇に置いていた私の携帯ではなく、どうやら先輩の物らしい。しばらくそのままにしていたけど、また鳴り始めたのを知り、先輩はようやくキスをやめた。
携帯を睨み付け、あかるさまに顔を歪めてる。
電話ではないみたいだけど、これで送り主が賀来先輩だったら、後から色々言われちゃうんだろうなぁ。
「――――真白」
返事をすると、先輩はなぜか、辛そうな表情をしていた。
「あのう、どうかしっ」
「隠し事――あるだろう」
「……そんなこと」
違うと言いたい。なのに、真っすぐな視線に射抜かれ、その言葉を口にすることができなかった。
「――――真白」
そっと、先輩の片手が頬に触れる。
何も言わず、しばらく見つめていれば、
「昨日――何かされただろう?」
「?――っ!?」
先輩が見せてくれた携帯には、昨日私に届いたのと同じ写真。制服をめくり上げ、下着が写されている写真と、鎖骨の部分をアップにしている写真だった。
聞かれたくないっ。
知られたく……なかったのに。
「これは……お前か?」
見られたくなかった。
こんな姿、知られたくなかったのに……。



