「とりあえずシート替えてっと。――真白? 食べ物、置いておくからね」
「言っても聞こえないんじゃねぇーか?」
「聞こえる時もあるのよ。あんたもカレシなら、これぐらい覚えてなさい」
「だから、なんでお前はいつも母親目線なんだよ」
よかったぁ。二人とも、もう治ってるんだ。
「あ、そろそろ行かないと。――梶原、行くわよ」
「先に下行ってろ」
「ちょっと、寝てる隙に何するつもり? まさか寝込みを――」
「んなことしねぇーよ! ちょっとぐらい二人きりにしろ」
「はいはい。邪魔者は出て行きますよぉーだ」
本当にいなくなったのか、急に静かになった。
すると――近くに、気配を感じた。
「やっぱ――オレのだよな」
頭を撫でながら、先輩は言う。
「悪かったな……うつしちまって」
別に、先輩のせいだなんて思ってないのに。
それにうつったとしたら、症状的に紫乃ちゃんのだと思うけど。
「終わったら、すぐに来るからな」
もう……言っちゃうんだ。
まだ行かないで。
もう少し……いてほしい。
「――――…」
「――真白?」
なんとか、目蓋を開けられた。
でも声は出てくれなくて、先輩に視線を向けるのでせいいっぱいだった。
「無理して目、開けることねぇーんだぞ?」
「……あっ、て」
(……だって)
「しゃべるのもやめとけ。――まだ、熱いな」
首に触れられると、じとっとするのがわかった。
かなり汗をかいているようで、先輩は冷たいタオルを首に当ててくれた。
「脱がしたりしねぇーから、安心しろ」
怖がったりしてないのに、先輩、やさしいなぁ。
「…………へへっ」
思わず、小さな笑みがこぼれた。
「携帯、枕元に置いとくからな?」
そう言って、先輩は立ち上がる。
さすがに行かないと、そろそろ本当に危うい時間なんだろう。
「…………」
「…………そんな目で見るな」
「?」
「ただでさえ色っぽいのに、んな甘えた目で見られたら――」
したくなるだろうが、と戸惑う表情をしていた。
今日は……してほしい、な。
弱ってるせいか淋しくて、そばに先輩がいるだけじゃ埋められない。
「……ぇん、ぱっ」
(……先輩)
「どうした?」
顔を近付け、私が言う言葉を聞こうとする。
口元に耳が近付いた時、今出せる全力で声を出した。
「…………ぃ、す」
(…………キ、ス)
「キス? キスがどうっ?!」
頭をなんとか起こし、頬に唇をくっつけた。
たったこれだけなのに、どっと疲れがきてしまった
。
「……お前からなんて、珍しいな」
「さみ、……しぃ、かぁ」
(淋しいから)
「ま、熱のせいでないなら――また、してくれよな?」
左頬に、先輩の唇が当たる。
口には……してくれないんだ。
残念だと思っていれば、先輩は耳元で、
「続きは帰ったら――な?」
と言い、ちゅっと音をたてた。
「ん、っ……ぁう」
「ははっ、熱でも反応はいいのか。――そんじゃ、終わるまでいい子でいろよ?」
な? と頭をぽんぽん撫でてから、先輩は部屋から出て行った。



