「気……ちゃ……無い」 「えっ? 何?」 その少年はボソボソと独り言のように口を動かしている。だがしかし、瞳はしっかりと私を見据えたままだ。 「気付いちゃいけない。思い出したら駄目だっ!」 少年はそう言うとランドセルを左右に弾ませ、カーブの向こう側へ走り去った。 「なんだったの? 怪我は無かったの?」 心配して降りて来た文恵が、辺りを窺いながらスカートのシワを伸ばしている。 「怪我は全然……。でも、思い出したら駄目……とか言ってたな」