誠-巡る時、幕末の鐘-




奏は再び足を止めた。


辺りには葉が全て落ち、枝だけになっている木が立ち並んでいた。


みんなで夜桜見物をしながら酒を飲んだ、そして桜花と初めて会った場所だ。




「……ありがとう。澪ちゃんのこと」




珍しく奏が感謝の意を伝えてきたので、沖田は瞬きを数度繰り返した。


珠樹は軽く首を傾げている。




「…あの子の母親は、表向き火事で亡くなったとされているが、実際は人間に殺された。……天皇の寵愛を受けていただけでな」




二人は黙って奏の話に耳を傾けた。


奏は桜の幹を優しく撫で、上を見ながら話を続けた。




「その後、すぐに澪ちゃんを連れて宮中から出た。……母親を亡くした衝撃で、しばらく笑わなかったし、人にも懐かなかった。…そのせいで、あの子の世界は私達人外の者達で形作られていった。………だから嬉しいんだ、あの子があぁして人の子らしく振る舞っているところが。帰らないなんて我が儘、初めて聞いたな。…元老院ではあまり自分の意見を主張しないから」




フッと笑う奏の目はいつもよりずっと温かく、優しさに溢れていた。