「……寒い。私も帰ろ」




奏が屯所へと足を運ぼうとした時、向こうから足音がしてきた。


冬に入り、京の市中の中心地から少し離れたこの場所に出入りする人間はあまりいないはずだ。




「おや、雷焔君じゃないか」


「良順先生でしたか。どうしてこちらに??」




いつも世話になっている医者の松本良順だったので、奏はすっかり気を許した。


走りよりながらこのような場所にいる理由を尋ねた。




「ちょっと用があったんだ……君に」


「……な、にを!!」




奏はいきなり薬品のようなものを嗅がされた。


それはまだ奏も知らない薬だったようで、耐性が全くなかった。




「悪いねぇ、お嬢ちゃん」




そう言った松本に、本来あるはずのない八本の狐の尻尾があった。


奏は落ちていくまぶたに抗うことはできなかった。