「ん??………わっ!!」




奏は叫び声がした方を振り向くと男がぶつかってきた。


そのまま男は脇目もふらずに走り去っていく。




「その者を捕まえて!!盗人よ!!」




被害者らしき老婦人が、助けを求めている。


そんなことより、目の前には無惨にも奏の手から落ちた甘味。


……さっき買ったばかりの。




「……私の甘味……」




その声音は、とてもとても低かった。




「……この……くそったれ!!!待ちやがれ!!」




奏は全速力で走りさった男を追いかけた。




「ぎゃあっ!!!」




ただの人間が鬼の脚力にかなう訳がない。


ものの数秒で追いついた。


その時の奏の顔といったらもう………私、鬼ですと言ったら全員が「あぁ、やっぱりね」と納得するような顔だった。