「なんでよ! 何で私には教えてくれないの?! ねぇアキラ!」
でけぇ声……丸聞こえだっつうの。ああ、テニス教えてほしいんだな……モテモテじゃん。
「……よ!」
アキラはなんて言ってんだ? でも怒ってるっぽい。はじめて見た……アキラでも怒る事あるんだな。
「ヤダヤダヤダ――――ッ! 教えてくれるまで帰らないもん!」
「…………!」
「アキラ!」
あ、あいつアキラの腕掴んでる……おい、こら、離せ。アキラから離れろ。
「…………な、女は大っ嫌いだっ! うぜぇ帰れ!」
――――えっ?
なんて、言った?
『女は大っ嫌いだ!』だったよな?
「もういい! アキラなんか絶交だかんね!」
女が、コートを飛び出してくる……俺の横を、横切る……。
――あ、泣いて、る?
「あ、アキラ! 来たのか、早く来いよ!」
その声で、通り過ぎた女が、俺に振り向いた。そして、すごく悲しそうな顔で、目で、俺を睨んでくる。
「あんたも大っ嫌い!」
「はぁ?」
はじめましての俺に、大っ嫌いって言われても……困るんだけど。
「ああ、アイツの事、気にすんなよ」
いつの間にか、アキラが俺の横にいた。
「あ、ああ……でも」
「いいから、始めっぞ」
「……うん」
アキラは、俺にテニスを教えてくれる。あの子には教えない。その違いは……?
そっか、そうだよな、そうだ。アキラが、女は大っ嫌いって言った。
――だからだ。

