…トントン


俺の肩を叩く奴がいる。ふと振り向くと、見知らぬおっさんが俺にハンカチを見せている。


\落トシタヨ。


だってさ。口がそう動いてた。


−どうも。


と、心の中で言って、ハンカチを受け取る。


\何ダヨ。礼グライ言エヨナ。


悪かったね。でもそりゃ無理だ。


あぁ、俺の名前はハルト。一昨年の冬、全く耳が聞こえなくなっちまった。長い事高熱が下がらなかったせいでね。


そのショックで引き起こした失語症。そいつも長く治らなかったせいで、喋る感覚を失っちまった。下手くそな声なら出さなくていい。


だからしばらくしゃべってない。


俺は今日、小さい頃から大事にしているクラリネットを手に公園に向かっていた。


約束があるからだ。