「ねぇハルト。ハルトはいつもクラリネット吹いてるけど、夢ってないの?」


−夢か。昔、オーケストラにいたりして、沢山あったけどな。もう追ったりは出来ない。


「なんで?」


−解るだろ?耳の聞こえない俺が集団の中で演奏したらどうなる?バラバラにしちまうだろ。


「あーゆーのって指揮者とかに従って吹くんじゃないの?」


−あぁ、ある程度リズムは合わせられるけどな。音程とか、自分がどれくら強弱つけて吹いてるかが解らないんだ。


「音程?ハルト上手じゃん」


−違う。同じ音を出すのは簡単だし、俺にもできるけど、口を絞めたり緩めたりで微妙な差が出る。それが集団にいると目立つんだよ。


「それでも頑張ればいいじゃん!私にばっかり頑張れって言って自分ばっかり諦めるのはズルイよ!」

−お前に何が解るんだよ。


「はぁ?何それ!」


−知った様な顔すんな。音程や強弱がどうのより、思い出したくない事だってあるんだよ!………………言い過ぎたな。……わりぃ、先に帰るわ。


「ちょ……ちょっとハルト!?」


もしかして私、ハルトの触れちゃいけない所に触れちゃったのかな……。


また会えるよね?


また聞かせてくれるよね?


……ハルト……。