楓は脳に酸素を送るように、深呼吸をして、思考を巡らせる。


(今までは顔を見ても平気だったのに…)


土方といるときは安心感に包まれていて……こんな風に心臓がせわしなくドクドクと脈打つなんてなかった。


でも、さっき目があったとき、なんだか恥ずかしくて、どうしようもなく顔をそらしたくなった。


(ああ…でも、この感じは……似てる。あれに)


サーカスの舞台に立つときの、あの緊張に、あの高揚感に。


(そっか…)


―――大好きだった軽業と同じように、…好きなんだ。土方さんが。



「…そっか。」


なんとなく、スッキリしたような、気持ちが落ち着いたような、そんな気がする。

自分の気持ちに気づけた。


(今は――伝えない)


事が終わったら…。