少しだけ怒りの色が混じっている楓の瞳を見た鬼一は、


「わりぃ、冗談だ。」


と言った。


「………、は?」

「待て、怒るなよ。」


眉間にシワを寄せて不機嫌さを表す楓に、慌てる鬼一は弁解しだす。


「ときどき、それで怖がる隊士がいるんだ。拷問中の悲鳴が聞こえるときも多々あるからな。」

「…で、私も怖がるんじゃないかと?」

「あぁ。悪い。杞憂だったようだな。」


そう言って再び歩き出す鬼一に、楓は不信感を抱いた。

(まるで……私が土方さんを嫌いになるように仕向けたような言葉だった)

―――怖いか?

―――人を死に追い詰めた副長が。


普通なら、こんなこと言わない。

土方さんを悪く聞こえるように語るなんて。

まるで―――


「この考えこそ…杞憂であってほしいです…鬼一さん…。」


楓は小走りで鬼一の後を追う。


(鬼一さん、違いますよね…?)