当たらない天気予報




メールを合図に、俺は制服を脱いで出来るだけこざっぱりとした私服に着替える。
鞄にはカモフラージュ用の軽めの問題集と財布。
リビングでテレビを観ている母親に「いってきます」とだけ声を掛け、携帯を握り締めて恵美がいつも迎えに来る場所へ。
待ち合わせ場所に着いてすぐ真っ赤な外車が俺の目の前で停まると、窓が開いた。


「孝文ぃ!」

「ごめんね、恵美さん」

「別にいいのよ。こちらこそ遅くなってごめん、仕事が長引いちゃって」


恵美は俺が呼び出せば、ほぼ例外なく飛んできてくれる。
無線タクシーと一緒だな。ご苦労様。
それもこれも、お金と時間を自由に使える売れっ子風俗嬢だからこそ。
あ、今度AVに出るって言ってたっけ。


「学校から帰ってきたばかり?お腹空いてる?」

「ううん、平気」

「そう。で、いきなりどうしたの?」


助手席に乗り、シートベルトを締める僕に恵美が問う。
斜陽の逆光に陰る恵美の顔は、恐ろしく綺麗。
世の中には、お金を払って恵美の身体を買う男がわんさかいるんだよな…。
大人って、怖い。
それに比べ俺ときたら、そうして稼いだ恵美のお金を貪るわけで。
(恵美にしてみれば、俺に遣う金額など微々たるものでしかないと思うが)
世間のサラリーマンに憐れみの念を抱いてしまう。
同時に、半年前にそんな恵美を紹介してくれた遊び人の男友達には本当に感謝だ。