当たらない天気予報




「いいのいいの」


湊が視線をアイスに戻す。
俺の倍速で物を食べる湊のそれは、もう残り一口しかない。





俺の記憶を遡っても、湊の髪が天然の黒色だったのは入学して3ヶ月目くらいまでだ。
高校に入って初めての夏休み、「休みの間だけ染める予定が、思いの外気に入ってしまって、黒染めすることなくそのまま新学期を迎えた」と言う馬鹿っぷり。
2年生まで俺と湊は同じクラスだったが、湊の髪は一定のターンで色が変わる。
茶色からは逸脱しないが、ピンク系、オレンジ系、ダークブラウン…微妙に色味が毎回違う。
俺からしてみたらそんな湊が誰よりも「お洒落な男」だと思っていた。
俺みたいにサッカーで真っ黒な肌に紫外線で焼けたパサパサの髪と違って、湊は白くてきめ細かい肌に似合う綺麗な茶髪。
それが俺からすれば羨望の対象で、だから俺は次第に湊に近づくようになった。
2年生の半ばまでには、気付けば四六時中一緒にいるような仲になっていた。
俺はその時、合コンで知り合った他校の女の子と付き合っていたけれど、その彼女より一緒にいる時間が長かったと思う。
そんな訳だから彼女にはあっさり愛想を尽かされてしまって、修学旅行の前に俺は振られた。
湊はそれが腑に落ちなかったらしく、修学旅行中、ずっと不満をたらたら零していた。自分のことでもないのに。


『なんで一紀みたいないい男を振るのか、俺にはちっとも解んねえ』


消灯時間が過ぎた旅館の庭で、湊は溜息をついた。