「これはどう?」
恵美が指したケースの中には、ダイヤの入ったシンプルなネックレス。
「これ…かぁ」
「嫌?若々しくていいじゃない」
と言うより、完全に予算オーバーなんです。
それを言えず、恵美が何か口を開くのを俯き気味に黙って待つ卑怯な俺。
「…予算、足りないの?」
まごまごしているうちに、ジュエリーケースの前から動かない俺達に気づいたのか、女性の店員がこちらに向かって来る。
小さく頷くと、恵美は「ふーん」と軽く応えた。
一般的な男ならお金が無いなんて恥ずかしくて言えないかもしれないけど、俺にはそんなプライドも羞恥心もさらさら無い。
でも、軽々しく「お金が無い」と公言するのは嫌だ。
「孝文、一旦帰ろ」
恵美はやって来た店員に会釈もせず、俺の手を引っ張った。
駐車場に戻り、車に乗り込むと、エンジンをかけるより先に、
「はい、これお小遣」
恵美が、シャネルの財布からスッとお札を抜き取って俺の前に差し出した。
計算通りと言えば、計算通り。
「だけど…」
いつもは「有り難う」と素直に喜んで受け取るそれも、今は困った顔をわざと作り上げて。
まあ、つい数日前も貰っているし。
「いいから。これで彼女を喜ばせてあげなさい」
恵美は、俺の手を取って力強くお札を握り込ませた。



