「来週の日曜日、彼女の誕生日なんだ」
「へえ。18歳になるの?」
「うん」
「もしかして、誕生日プレゼント選びに付き合って欲しいのかな?孝文君?」
意地悪な笑みを零して、恵美が俺の顔を覗き込む。
「…ティファニーのネックレスが欲しいんだって。下見、したいんだ…」
半分、嘘。
下見どころか、あわよくば少しカンパして貰おうと考えている自分がいる。
だけどそんな様子は微塵も見せず、「何にも知らない困っている高校生」を演じた。
翔子の口からティファニーの名前が出た日の夜、俺はインターネットでティファニーのネックレスを調べた。
翔子が言う通り、俺の手持ちのお金で買えるネックレスは結構ある。
だけど、もし翔子がもっと高いネックレスをねだったら?
翔子は俺から物をねだるような女じゃない。
だから俺が「プレゼントは何円までね」と言えば、それに従ってくれるだろう。
でも、彼女の翔子に自分の懐事情を話すのは恥ずかしいんだ。恵美から施しを受ける以上に。
それに、折角の翔子の誕生日なのに、安いシルバーのネックレスをあげるのが嫌だった。恵美から施しを受ける以上に。
ティファニーは、想像していたよりも俺にとって少し敷居が低い感じがした。
恵美にそう耳打ちすると、「百貨店の中のティファニーはこんな感じよ。本店や銀座なんかのお店は、高校生が出入りできる雰囲気じゃないわ」と答えた。
恵美は俺達みたいな連中でも入りやすい店舗を選んでくれたようだ。
流石、気が利く。
店内には若いカップルや水商売風の女、仕事帰りであろう中年男性などで賑わっていた。
成る程、このくらい雑然としていれば、俺だって差ほど気後れせずに済む。



